研究

今、IoT(モノのインターネット)機器によってビッグデータ(大量のデジタルデータ)が集まり、AI(人工知能)によって新たな価値が生み出されています。これらの技術によって社会はより良い方向へ変化していくでしょう。このような状況を鑑み、松谷研はIoT、ビッグデータ、AIのための基盤技術(とくに計算機やアルゴリズム)を研究しています。

具体的には下記のプロジェクトに取り組んでいます。完全な論文リストはここに、いくつかの論文概要はここにあります。


エッジで学習可能なオンデバイス学習(2017年〜)

工場、データセンタ、オフィス、家庭、ドローンなど実環境における異常検知を研究しています。
画像認識では「猫」の画像は世界中どこでもいつでも「猫」でしょうけど、実世界の異常検知ではそうはいきません。例えば、ノイズや他の装置の稼働状況など外的要因によってセンサの値の見え方が変わってしまいます。「正解」がズレてしまうのです。
そこで、置かれたその場で正常を学習し、異常検知できる技術が必要です。松谷研では、身の回りに埋め込まれて動作するような小さくて軽いデバイス上で学習する技術「オンデバイス学習」を提案しています。学習ボタンが押されている間だけ正常パターンをオンデバイス学習すれば、ラベル付き教師データを準備せずに環境に特化した異常検知が実現できます。4ドルのコントローラでもちゃんと学習できます。

下記は松谷研で開発しているオンデバイス学習の紹介動画です。いろいろな企業と協力して実証実験を行っています。これを基に、エッジデバイス同士が協力して学習する連合学習、制御にも応用できるオンデバイス強化学習人行動認識への応用、オンデバイス学習のチップ化などに取り組んでいます。

※本研究は、情報工学科近藤研究室と共同で進めています。
※本研究の一部は、JST戦略的創造研究推進事業CRESTのご支援を受けています(2017年10月から)。


Beyond 5G時代のネットワークを介したセンシングやAI(2021年〜)

Beyond 5Gによって、多数のIoTデバイスが広帯域な無線ネットワークにつながって、物理空間とサイバー空間で、情報をやり取りするコストが劇的に下がります。これによってより豊かで便利なサービスの創出が期待されます。
こうしたBeyond 5Gの流れを見据えて、松谷研ではネットワークを介したセンシングやAIを研究しています。具体的には、いろいろな制御に応用できる分散深層強化学習ゲーム応用例)、エッジ端末同士で協力して学習する連合学習、構造物の認識(後述するSLAM道路検出)などです。

下記は松谷研が取り組んでいるネットワークを介した分散深層強化学習の紹介動画です。アクターはエッジ、ラーナーはクラウドで動作するイメージです。


移動ロボット向け自己位置推定および地図作成の高効率化(2019年〜)

お掃除ロボットなど自律的に移動するロボットでは、壁や障害物がどこに有って、自分が今どこに居るのかを自律的に判断できなければなりません。このような自己位置推定および地図作成のためにSLAMという手法が使われます。
SLAMにはいろいろなアルゴリズムがありますが、総じて計算負荷が高いです。松谷研では、小さくてバッテリー容量に制限があるような移動ロボットを対象に粒子フィルタ型SLAMグラフ型SLAMを高効率に行うための研究をしています。

下記はPYNQと呼ばれる小さなFPGA(再構成可能ハードウェア)ボード上で、2種類のSLAMを動かしたときのデモ動画です。大きくて高価なFPGAではなくて、小さくて安価なFPGA上で動かしているところが自慢です。移動ロボットに搭載できるところまで来ています。


常微分方程式を基にした高効率ニューラルネットワーク(2020年〜)

松谷研では、FPGAなどの小規模エッジデバイス対象に、パラメータ数が少なくて精度が高い畳み込みニューラルネットワークの推論器を研究しています。常微分方程式を基にしたニューラルネットワークが提案されており、松谷研ではこれを小規模FPGAに応用する研究、MobileNetなどで使われているパラメータ削減手法(Depthwise Separable Convolution)と組み合わせてさらにパラメータ数を削減する研究(下記のdsODENet)、今ある知識を他の環境に転移させるドメイン適応への応用などを研究しています。


高速インネットワーク機械学習・データ解析(2014年〜2021年)

大量のデータ(ビッグデータ)の中から有益な情報を抽出すべく、ネットワークパケットに対する高速機械学習アルゴリズムを研究しました。例えば、10ギガビットイーサネットを備えたネットワークインタフェースカード上に機械学習アルゴリズムを実現し、大量のセンサデータの中から外れ値(不審者など)、変化点(株価の傾向の変化など)、異常行動(自動車の危険運転など)を検出できるようにしました。このようなインネットワーク機械学習技術はディープラーニングにも応用しました。例えば、複数のGPU(グラフィックス処理ユニット)で計算した勾配の集約、重みパラメータの最適化(SGD、AdaGrad、Adam、SMORMS3アルゴリズムなど)の高速化を行いました。

※本研究の一部は、JST戦略的創造研究推進事業さきがけのご支援を受けました(2013年10月から2017年3月)。


ビッグデータ処理の高性能化(2014年〜2019年)

現実空間もしくはネットワークサービスから集まる大量のデジタルデータを蓄積および解析し、その傾向をつかむことで、ビジネスの意思決定、流行の予測、犯罪防止、道路交通状況判断などに応用できると期待されています。
ビッグデータを利活用するには、いろいろな機能(ソフトウェア部品)が必要です(下図)。例えば、ストリームデータを集める機能、集めたストリームデータを逐次的に処理する機能、貯めてから一括処理する機能、データを蓄積検索する機能などです。この辺については解説記事を書いています。ディープラーニングやオンライン機械学習も関係します。

松谷研ではこれらのソフトウェア部品を最近注目されるようになったFPGA(再構成可能ハードウェア)やGPU(グラフィックス処理ユニット)といったアクセラレータを使って高性能化しました。具体的には、10ギガビットイーサネットに接続された「ネットワーク接続型FPGA」、および、10ギガビットもしくは40ギガビットイーサネットに接続された「ネットワーク接続型GPU」をいくつも用いてHadoop、Spark、Spark Streamingなどのデータ処理フレームワークを高速化しました。

下記のように、ネットワーク接続型GPUを応用してGPUを持たないパソコンがネットワーク越しにあるGPUを使ってVR(Virtual Reality)を利用できるようにしたこともあります。

※本研究の一部は、JST戦略的創造研究推進事業さきがけのご支援を受けました(2013年10月から2017年3月)。


ビッグデータ蓄積検索の高性能化(2013年〜2019年)

ビッグデータの蓄積および検索のために、従来のリレーショナルデータベースに加えて、構造型ストレージ(NoSQLと呼ばれる)の利用が注目されています。松谷研では10ギガビットイーサネットに接続された「ネットワーク接続型FPGA」、および、10ギガビットもしくは40ギガビットイーサネットに接続された「ネットワーク接続型GPU」を用いて様々なタイプのNoSQLを高性能化しました。例えば、キーバリュー型ストア、カラム指向型ストア、ドキュメント指向型ストア、グラフ指向型ストアなどです(下図)。

下記はネットワーク接続型FPGAを用いてキーバリュー型ストアを高速化した例です。他にもネットワーク接続型GPUを用いてドキュメント指向型ストアとグラフ指向型ストアを高速化しました。

また、仮想通貨として注目を浴びているビットコイン(ブロックチェーン)を格納するためのデータストアを対象とした研究も行いました。
※本研究の一部は、JST戦略的創造研究推進事業さきがけのご支援を受けました(2013年10月から2017年3月)。


光ビームを用いたデータセンターネットワーク(2012年〜2018年)

松谷研では、サーバラックの上にコリメータレンズを設置し、このレンズを使って光信号を送受信することでサーバラック間を40Gbpsの光ビームで通信できるようにしました。下図では、光ビームをミラーに反射させて、2つのコリメータレンズ間で通信しています。

レンズの向きを変えれば任意のサーバラック間に40Gbpsリンクを必要に応じて形成できます。我々はこれを「40Gbpsハイウェイ」と呼んでいて、このような光ビームを仮想マシンやビッグデータの移送に利用しました。

※本研究は、国立情報学研究所鯉渕研究室と共同で進めました。
※本研究の一部は、総務省 戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)のご支援を受けました(2013年4月から2014年3月、2016年4月から2018年3月)。


チップ間無線を用いた3次元メニーコアプロセッサ(2009年〜2019年)

パソコンCPUでもマルチコアが当たり前です。数十個から数百個のプロセッサコアが集積されたチップも開発されていて、これらは「メニーコアプロセッサ」と呼ばれます。このようなメニーコアはNetwork-on-Chip(NoC)と呼ばれるネットワークでつながります。松谷研では、このようなメニーコアチップを垂直方向に積層することを研究しました。
特にユニークなのが「ワイヤレス3次元NoC」の研究です(下図)。チップ内の水平ネットワークは通常のメタル配線を用いますが、チップ間の垂直ネットワークには慶應義塾大学電子工学科黒田研究室で開発された無線技術を用います。チップ間の接続が非接触の「ワイヤレス」であるという特徴を活かし、後からチップを入れ替え可能な計算機を研究しました。

※本研究は、情報工学科天野研究室と共同で進めました。2014年くらいまでは米国カーネギーメロン大学、南カリフォルニア大学とも共同研究を行いました。